東京外かく環状道路の都市計画事業承認への異議申し立て口頭意見陳述|橋本良仁(道路全国連事務局長)

2016年9月27・28・30日、東京外かく環状道路の都市計画事業承認への異議申し立てについての口頭意見陳述が行われ、9名が意見陳述を行いました。そのうち9月28日、道路全国連事務局長・橋本良仁による意見陳述の原稿を掲載します。

2016年9月28日

  • 道路住民運動全国連絡会 橋本良仁

はじめに

東京都八王子市高尾町1989-5の橋本良仁です。2014年3月28日付で国土交通大臣が行った、国土交通省告示第395号により告示された都市計画法第59条第3項および第4項の規定により、都市計画事業の承認及び認可をした処分に対する異議申し立てに関して、行政不服審査法第25条第1項ただし書きに基づき、申立人である「世田谷区在住の某さんの代理人として意見を述べます。

私が、道路問題に取り組んだきっかけは、国定公園・高尾山をトンネルで穿つ首都圏中央連絡自動車道の東京都内部分22.5キロメートルの建設計画問題でした。今から32年前のことですが、それ以来、道路をはじめ全国の公共事業問題と関わっています。

現在、私は道路関係住民団体の全国組織である道路住民運動全国連絡会の事務局長の任にあり、2013年からは、ダムや道路をはじめ、干潟の干拓事業、スーパー堤防、リニア中央新幹線、さらに沖縄の基地建設など全国の大型公共事業問題に取り組む住民や市民団体、ジャーナリスト、弁護士などが共同して設立した公共事業改革市民会議の代表も務めています。そのような立場にあるため、これまで重要法案審議の際は、参考人として国会の国土交通委員会や地方公聴会などにも出席して意見を述べてきました。

本日開催している東京外環道の都市計画の異議申し立てにともなう意見陳述をはじめとした公共事業に関連する行政手続きは、国民の世論や40年以上にわたる先輩や私たちの住民運動団体や市民団体の活動や行政に対する提言によって制度化されたものがほとんどです。これらの制度は、公共事業の透明性や公正性の確保、国民や関係住民との合意形成を目的としていますが、制度はできても行政の姿勢はこれまでとあまりかわりません。制度化された各段階の手続きを通過さえさせればそれでよしとする行政の姿勢に怒りさえおぼえます。制度はできても、その実はともなわない、「仏を作って魂を入れず」の状況がいまだに続いています。

国会や自治体の議会、さらに事業計画の公述などの機会に必ずお話しすることがあります。この陳述に職務として出席されている職員の皆さんに、ぜひお話ししたいことがあります。医者や弁護士や裁判官や学者やジャーナリストなどの専門職に方はそれぞれがその専門性をもって、そして皆さんは国家公務員として、己の信じるところにしたがって誠実に職務に向き合っていただきたいということです。本日の東京外環道の沿線住民の意見陳述に立ち会うという貴重な機会を大切にしていただきたいと思います。重な機会を大切にしていただきたいと思います。

ある省庁のキャリア官僚ですが、管理職に就くとき前任者から次のような申し送りがあったと話してくれました。「情報は可能な限り隠し、隠しきれない場合はだまして逃げろ、逃げ切れないときは嘘をつけ」と。

30年におよぶ私の経験からいっても、さもありなんと思う次第です。

東京外環道の経緯

改めて、東京外環道の歴史的経緯について述べたいと思います。

外環道の都市計画決定は1966年ですが旧法のもとでの都市計画決定だったため、沿線住民への説明はほとんど行われませんでした。沿線住民は大きな建設反対運動を展開し、関係自治体も建設に反対したため、1970年10月、当時の根本建設大臣が凍結を言明することになりました。その後、東京外環道建設は36年間凍結されたのです。しかし、1999年、東京都知事に就任した石原慎太郎氏は東京の3本の環状高速道路(中央環状、東京外環道、圏央道)の建設促進を表明します。石原知事こそ、凍結状態の東京外環道をフリーザーから取り出した張本人だといえます。

1999年6月、朝日新聞社の招待で沿線の住民団体代表3名がパリを視察します。この視察には、国や東京都の関係者も参加していました。その年の10月、朝日新聞社の主催で「東京・パリ都市交通シンポジウム」が開催され、住民団体の代表2名がパネリストになりました。このような経緯の中で、2002年6月から関係住民との合意形成を謳い文句にPI外環沿線協議会が開催されますが、2007年12月の国幹会議で地上部の建設は中止して大深度地下方式による基本計画が承認され、現在に至っています。

沿線住民と関係自治体の反対で37年間ものあいだ建設が凍結されていた東京外環道を何が何でも建設したい、そう考えた国や東京都、そして石原知事らはその打開策を練ったのではないかと思います。国民との合意形成努力をしているフランスのパブリックインボルブメント(PI)の制度に見習って、PIの誠実な実行を担保に沿線住民らを説得したのです。東京外環道の建設中止も選択肢の一つといった謳い文句で始められたPI沿線協議会ですが、沿線住民との合意形成は不十分なまま、強引に建設にこぎつけられてしまいました。

フランスのPIとは

国土交通省がお手本にしたというフランスのPIとは一体どんなものなのか、ここで紹介します。東京外環道で行われたPIと、その内容や合意形成を行う精神が全く違います。

昨年末、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)に、NGOの一員として参加するためフランスを訪問しました。滞在期間中、パリ郊外にある人口数万人のバニュー市の女性市長と懇談することができました。その中で、私は、高尾山で繰り広げられた大規模な公共事業である圏央道建設問題を例に、日本の公共事業の実情を紹介しました。「日本では国や自治体が一方的に進める大型公共事業によって貴重な自然が壊されたり、多くの住民が土地を奪われたりします。裁判を提起してもなかなか解決せず、どんなに反対しても最後は国によって土地や私有財産が強制的に取り上げられます」と紹介しますと、市長は驚いた表情でこう言いました。一員として参加するためフランスを訪問しました。滞在期間中、パリ郊外にある人口数万人のバニュー市の女性市長と懇談することができました。その中で、私は、高尾山で繰り広げられた大規模な公共事業である圏央道建設問題を例に、日本の公共事業の実情を紹介しました。「日本では国や自治体が一方的に進める大型公共事業によって貴重な自然が壊されたり、多くの住民が土地を奪われたりします。裁判を提起してもなかなか解決せず、どんなに反対しても最後は国によって土地や私有財産が強制的に取り上げられます」と紹介しますと、市長は驚いた表情でこう言いました。

「フランスでは、そのようなことはありえませんし、想像することもできません。バニュー市の都市計画事業は40年もの時間がかかりましたが、工事が始まったところです。この事業はパリからの地下鉄路線を郊外のバニュー市まで延伸させるとともに環境先進自治体としての街づくりを進めるものです。この事業は多額な予算が必要なのでその予算的措置を国に求めてきました。この計画は、大多数の市民の要望でしたが、それでも100%というわけではなく、事業に反対という主張の市民も、少数ですがおられました。

都市計画を進めるに当たり、私たちが心掛けたのは市民の声に丁寧に耳を傾けることでした。この事業計画の作成は市民と同じテーブルで話し合って何度も何度も計画を立案し変更しながら練り上げたものです。最終的な事業計画案について、何とか全ての市民との合意を得ることができて、建設にこぎつけることができました。何度も説明の機会を設けましたが、説明会になかなか足を運べない、また運びたがらない市民もいました。そうした市民にはクリスマス会などといった誰でも集まりやすいイベントの機会を利用して、少しづつ都市計画の内容をお伝えし理解が得られるようにしてきました。市民の合意なしでどうして計画を進めることができるでしょうか。バニュー市の主権者は市民です」。そして、市長は最後にこう言いました。「急がばまわれです。市民の合意が得られれば、都市計画事業はスムーズに進み、経費も安く上がります」と彼女は胸を張りました。日本の現状とは隔絶の感がありますが、かってフランスも現在の日本と同じように、国民はお上のやり方に従えといった上意下達のシステムでした。現在のフランスの合意形成制度(PI)は、国民の長い運動の中で勝ち取られた制度であり、日本のPIとは似て非なるものです。

全国どこでも住環境・自然環境の破壊

国土交通省は、道路事業を進めるに当たり、関係住民との合意形成の大切さを唱えますが、道路建設先にありきがその実態です。圏央道は国史跡八王子城跡と国定公園高尾山を直径10メートルのトンネルで串刺しにする環境破壊の道路として、28年におよぶ反対運動と12年間の裁判が行われました。

  • 運動や裁判の中で見えてきたこと
    • 担当課長を証人尋問
    • 国のB/C比を採用せず(住民側の主張も採用しなかった)
    • 会計検査院による国交省への勧告

八王子城跡の滝枯れや高尾山のトンネル工事による地下水低下、湧水の枯渇、オオタカの営巣放棄などの自然破壊、ジャンクションや高架による景観破壊について、司法はその事実を認定しました。

シールドマシンによる先進導孔の止水工法(地盤凝固剤の注入)+ナトム工法による拡幅工事によっても環境破壊を防ぐことはできなかった。

東京外環道の大深度地下工事は、これまで経験したことがない。技術的にも難しく、どれほどの費用を要するか、そして何よりも沿線住民の住環境や地下水などの自然破壊が心配される。破砕帯や固い岩盤を掘った八王子城跡や高尾山トンネルと比較すると東京外環道の地層は安定しているが、どんな工法によっても地下水や地上部に影響を与えない工事は不可能である。

全国の道路問題の事例紹介

国道43号線の沿線公害(最高裁で住民勝訴確定、遠藤騒音基準を改悪、幹線道路沿道基準など、広島国道2号線訴訟、湖西道路などの騒音被害、東九州自動車道のミカン農家の強制収用、名古屋第二環状(家屋被害)の事例、大深度トンネル工事などの外環道もしかり

道路を造らなくても渋滞はなくせる

1980年代、欧州の大都市は車の渋滞に悩んだ。イギリスはロンドン市内の渋滞緩和のため8車線の環状道路M25を整備したが、渋滞解消どころかM25が渋滞する結果になった。ブレア首相の率いるイギリス政府は、この原因を徹底的に調査しグリーンレポートという報告書にまとめた。その結論は、道路をつくれば便利になる、車利用が増大し、渋滞は減少するどころかますます増大する。ロンドンの渋滞を緩和するためには自動車の利用を抑制することだった。

東京都の環境白書(石原知事)はグリーンレポートを高く評価したが…。

イギリスは1998年に都市政策を大転換し、ロンドンの市内に流入する車に8ポンドを課税しました。結果、渋滞は大きく減少します。ヨーロッパの他の環境先進国である、オランダ、ドイツ、フランス、デンマーク、ノルウエーなどでも鉄道、バス、路面電車などの公共交通を充実させ、徒歩や自転車利用を進めています。を進めています。

このような交通政策は、排ガスによる大気汚染公害や地球温暖化防止にも効果をあげています。車に依存しない、徒歩や自転車の利用は、健康をはかり医療費の抑制にもつながります。多額な税金をつかって道路を造らなくても渋滞解消は可能であることの具体的な事例です。東京の環状高速道路や道路ネットワークを整備することで車の渋滞をなくそうという考え方は古い20世紀型のパラダイムであり、東京外環道や圏央道建設にたよる交通政策は、まさに時代遅れと言わざるをえません。

東京では、これまでどんなに道路を造っても車は増え続け、渋滞は解消されません。東京外環道や圏央道は1970年代に計画され、第四次全国総合開発計画で閣議決定された右肩上がりの経済成長のもとで可能なものであり、バブル経済の遺物です。少子高齢化社会に向かい、将来交通需要も大幅減少という現在、建設中止を視野に入れた検討が必要です。平成17年交通センサスによる将来交通需要は平成22年センサスを適用すべきです。

外環道建設で儲けるゼネコン

外環道路は当初予算の発表から7年目には事業費が3155億円増え1兆5979億円となりました。大手ゼネコンの4社を中心に工事金額の9割以上を受注しています。

国や中日本高速道路や東日本高速道路が発注した主な工事は約40件あって、契約総額は約6700億円で、その9割以上の約6373億円を鹿島建設、大成建設、大林組、清水建設の大手ゼネコン4社が共同企業体(JV)の幹事社として受注しています。工事規模が最大の本線トンネルの4工事も、この4社が幹事社として高値で受注し、落札額は約5315億円にのぼっています。大手4社の2016年3月期の決算では過去最高利益を更新しています。日本建設業連合会の中村会長(鹿島建設会長)は、定時総会で、「アベノミクス政策が功を奏し、建設業界は20年の低迷から脱することができた」と述べているほどです。まさに、政界が旧態依然とした旧来型の大型公共事業を重厚長大産業のために行っているのではないでしょうか。

負担を押し付けられる沿線住民はたまったものではありません。行政による東京外環道の説明は何度聞いても住民の目線から大きくかけ離れていると言わざるをえません。

オーフス条約、フランスの自治体訪問経験、先人の教え

圏央道もそうでしたが、どこの道路事業もある日突然、終の棲家である自宅の上に道路のルートが引かれます。やむをえず、住民は立ち上がるというのが実態です。誰一人好んで道路建設の反対運動に関わったのではありません。道路全国連の役員には、50年以上も活動を続けている人もいます。

オーフス条約の紹介

第1回国連人間環境会議で採択された「人間環境宣言」を受け、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた環境と開発に関する国際連合会議(リオ会議)では、環境と開発に関する「リオ宣言」が、気候変動枠組条約や生物多様性条約などとともに国際的合意がなされました。

リオ宣言の第10原則は市民参加条項であり、「環境問題はすべての望む市民が参加し、公的機関の環境に関する情報を入手し、意思決定に参加する機会、また、司法的・行政的な手続きに参加する機会が与えられなければならない」という趣旨のことが記されています。
この理念を実現するため、1988年にデンマークのオーフスという町で開かれた国連欧州経済委員会において、「オーフス条約」という国際条約が採択されました。この条約は日本ではあまり知られていません。私もわずか4年前に知りました。

オーフス条約は、「1.環境に関する情報へのアクセス、2.意思決定における市民の参画、3.司法へのアクセス(訴訟の権利)」、この3つを市民の重要な権利として位置づけることを行政に求めています。イギリスやフランスをはじめ46か国とEUが加盟しており、加盟国はこれによって国民と対話を図り、求められた情報は何でも開示しなければなりません。日本は批准していませんし、環境省はこのような国際条約があることを知らせようとはしません。

終わりに

陳述の終わりに、熊本県阿蘇郡小国町の北、大分県との県境で建設が強行された、下筌ダムの住民のリーダーの戒めを紹介したいと思います。ダムで湖底に沈む住民達は「墳墓の地を守れ」と立ち上がり、強大な国家権力を相手に堂々の戦いを挑みました。世に有名な「蜂の巣城」の攻防です。その顛末はまさに大型公共事業に対する住民の戦いの原点です。有能な指導者だった室原知幸さんの「公共事業は法にかない、理にかない、情にかなわなければならない」の戒めは、公共事業を進めるうえで、大きな示唆となります。

 

以上、私の希望を含めて陳述しましたが、2014年3月28日付で国土交通大臣が行った、国土交通省告示第395号により告示された都市計画法第59条第3項および第4項の規定により、都市計画事業の承認及び認可をした処分の取り消しを求めます。